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モタード対談 第2回 サスセッティング Q&A 〈前編〉2023.11.20
GARAGE OPB 代表 大森裕記さん
【聞き手】
マーキュリープロダクツ代表 薄井保彦
モタード歴20年超のマーキュリープロダクツ代表・薄井がその広い人脈をフル活用(笑)し、
ライディングについての疑問やバイクのセッティング、
憧れのテクニックを身につける方法などを各分野のスペシャリストにお聞きする
「モタード対談」をシリーズでお届けします!
大変長らくお待たせいたしました!
第2回は「サスセッティングQ&A〈前編〉」!
モタード界では知らない者はいない、伝説のライダーにして凄腕メカニック、
あらゆる分野のレーサーのみならずストリートのライダーからも絶大な支持を集める匠、
GARAGE OPB代表・大森裕記さんにサスペンションのセッティングについてお話を伺います!
〈前編〉は「なぜセッティングが必要なのか?」「どうやって始めればいいのか」など、
セッティングの基本的な考え方や心構えについてのお話です。
⇨第1回「スライド入門講座 講師:川留健一選手」はこちら!
★サスセッティングは必要!?
--疑問に思っている方も多いかもしれないのでお聞きしますが、サスセッティングというのは必要なのでしょうか?
必要、というより「やらなければならなくなる」というのが正解です。
練習を積み重ねてタイムが上がってくると、タイヤが跳ねる、滑るなどの問題が出てきます。
元々、モタードバイクというのはモトクロスやエンデューロ用のマシンを改造しているので、ロードコースを走るに当たってはネガが多いものです。
そのネガを潰した上で「旋回力がもう少し欲しい」とか「高速コーナーは速いけど、低速コーナーでは曲がっていない」「よく曲がるけどダートセクションでは遅い」など、問題を明確にして、マシンをどうしたいのかという方針を決めていきます。
同じコースを同じくらいのタイムで走るマシンでも、狙いどころが違うとセッティングは変わってくるものです。
例えば、森田一輝選手のバイクは極端に前下がりのセッティングでした。
モトクロス出身なので、ダートセクションではどんなバイクでも扱えるという強みを活かし、ロードセクションでの走りやすさに特化したマシンを作っていました。
日浦大治郎選手のバイクはその真逆で、ダートでの走りやすさを重視したセッティングになっていますね。
--自分の場合に置き換えて考えると、速い人を追いかけた時に「ここのセクションではいつも離されちゃうな」とか、反対に「ここは追いつけるな」とか、得手不得手がありますね。
まずは「自分にとって何が必要か」を考えて、マシン作りの方向性を決めましょう。
桶川スポーツランドのSS Killersに出るためであればロードコースを走りやすいバイクを作れば良いですが、モタードのレースに出るのであれば、ロードもダートも走れるようにしておかないといけません。
そこで、ある意味「妥協」が必要になります。
--どこでも思いどおりに走れる魔法のバイクはないと…?
モタードという競技は、ロードセクションとダートセクションを1台のバイクで走るわけですから、ある局面では、マシンのネガを許容して、ライダーがなんとかすることでバランスを取らなければなりません。
そういう意味でも「サスセッティングは必要である」と言えますね。
--得意な部分を伸ばす方向か、苦手な部分をカバーするための方向か、両方の考え方がありますね。
更に難しいのは、ロードセクションにおいてもグリップが良い状態と土が出て滑りやすくなった状態とで差が大きいところです。
フルターマックのレースにしか出ないのならターマック用のセッティングをすれば良いですが、モタードのレースに出る場合は、基本のセットを出して、グリップが良い状態、滑りやすい状態のどちらにも振れるセッティングの幅を持つことも必要です。
--そうすると、走るコースによってもセッティングには違いが出てくるということですね?
当然、そういうことになります。
★セッティングは比較データ まずはきちんと整備して、基準をつくりましょう
--実際のセッティングは何から始めればいいのですか?
セッテイングの前段階として、まずはきちんと整備をしましょう。
そのためにサービスマニュアルを用意しましょう。
必要なことの8割〜9割以上は、サービスマニュアルに書いてあります。
サービスマニュアルをよく読んで、書いてあることを理解した上で、自分でバラして触ってみましょう。足回りも全部バラして、自分で組み上げてください。
なぜそんなことを言うかというと、新車を買う場合は良いですが、中古のバイクの場合、前のオーナーがどんなふうに使っていたか分かりませんので、まずは点検をしなければいけません。
傷んでいるところはきちんと修理して、マシンを良い状態にすることが大事です。
サービスマニュアルに書かれている数値もとても重要です。
例えばフロントアクスルは、締め付けトルクによってハンドリングに影響が出たり、各部のボルト類も、同じサイズのものが使われていても場所によって軸力を高く締める必要があったりします。
--「見なくても分かる」と思っても、ちゃんと確認しながらやりましょう、ということですね。
セッティングは比較データなので、基準が必要です。
まずは正しく整備をして、基準をつくるところからです!
車体を良い状態にしておくことはもちろんですが、セッティングを出そうとするときには状態の良いタイヤを使ってください。
減ったタイヤでセッティングをして「新品タイヤを履いたら全くフィーリングが違って乗れない!」ということは、冗談ではなく本当に多いです。勿体無いと思っても、セッティングには新しめのタイヤを使ってください。
タイヤに関してもう一点、とても大事なのが常に同じタイヤを使うということです。
「たまたま手に入ったから」「安かったから」と色々なタイヤを使う方がいますが、タイヤは銘柄によってラウンドやハイトなど形状が全く違います。
例えば、ミシュランとメッツェラーのリアタイヤを比較すると、同じモタード用のスリックタイヤでもハイトが10ミリも違います。つまり、リアの車高が5ミリも変わるということです。5ミリもリアの車高が変わったら、誰が乗っても分かるぐらい旋回性などが違ってきますよ!
タイヤが変わればセッティングを変える必要が出てきますので、基本となるセッティングを決めるときには同じタイヤを使ってくださいね。
--耳が痛いです…。笑
★乗り方も変えなければタイムは上がりません! 違和感を乗り越えましょう!!
フロントフォークの突き出し量、リアの車高などを変えた場合、初めはものすごい違和感を感じるはずです。
変化に対して、人は拒否反応が出るものです。
セッティングを変えれば、違和感を感じるのは当然。
「ちょっとイヤな感じだな」と思っても、これはダメだと決めつけず、しばらくそのまま、違和感を感じなくなるまで我慢して乗ってみてください。
少なくとも15分くらいは辛抱しましょう。
セッティングが変われば、ブレーキングやアクセルを開けるタイミングが変わります。
違和感を感じた時点で「何か違うな」と思って走るのをやめてしまう人も多いですが、変わったバイクにどうやって乗れば速く走れるかを考えてください。
例えば、一次旋回がよくなる方向にセッティングを変えたのであれば、それによってコーナーの進入速度が速くなったりボトムスピードが上がったりすることを念頭に置いた走りをしないといけません。
セッティングを変えてもアクセルの開け方が変わらなければ、タイムは上がりません。
アクセルオンやブレーキングが今までと違うタイミングになるので戸惑うかもしれないですが、そこを意識して変えていってください。
ほんのちょっと後ろに座るだけで、曲がりやすくなったりタイムが上がったりするものです。
--セットを変えた結果それまでの問題が解決できていれば、早くアクセルを開けられたり、ブレーキに不安がなくなったりといった変化が現れるはずですからね。
自分自身の限界も上げていかないといけないということですね!
違和感が消えず「前の仕様が乗りやすい」と思って戻してしまう場合もありますね。
もちろん、変えた方向が誤っていて戻すのが正解、ということもありますが、果たしてそれは明確な判断基準によるものなのか?ということをはっきりさせましょう。
タイムを計測したり、データロガーを活用したりするなど、自分自身の感覚を頼るのではなく数字を見て判断しましょう。
セッティングは違和感との戦いです。染み付いたものを壊さなければタイムは上がらないと肝に銘じてください!
★コースを一周して「良いタイムが出る仕様」が正解
もうひとつ理解する必要があるのが、セッティングはトレードオフだということです。一つのコースを走る中で、全てのコーナーで最高のセッティングというのはないものです。
何かを優先することで、別のところで乗りづらさ出てきてしまったとしても、コースを一周して良いタイムが出る仕様が正解ということです。
コーナーが10あったとして、全てのコーナーを走りやすいバイクは作れない。8つのコーナーに合わせたマシンを作り、あとの2つは乗り手がなんとかする。先ほども言いましたが、妥協が必要な部分が出てきます。
--嫌な感覚がしたり難しく感じる部分があったとしても、トータルで良いタイムが出れば良いということですね。
むしろ、嫌な感覚がして当然ということです。今までに染み付いたものを壊さない限り、そこからタイムは上がらないんですよ。
〈後編〉は、セッティングの進め方とサスペンションに関するより詳しいお話です!お楽しみに!!
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